「アミィダ〜ミィロク〜シャカニョライ〜♪」
フンフン。おかっぱ頭の少女が、鼻歌を歌いながらほうきで、教室の床をはいていた。
その背後から、髪のやたら長い少女が、腕を胸の高さまであげ、前かがみになって、
忍び寄ってくる。
かがんでもなお、おかっぱの少女と同じくらいの背があったので、前に垂れた髪の間から、薄笑いの口元がのぞいて見えた。
テレビの画面から這い出てきたようなその姿に、他の生徒達は、声をあげることも
できなかった。
「えっ!?」
いきなり、わきの下を後ろから抱きしめられ、おかっぱ頭の少女は固まってしまった。
(ナニ、ナニ、ナニー!?)
そのまま、視界が上にずれ、天井が近くなる。
「ほうら、高い、高〜い!!」背中から声が聞こえた。
おかっぱ頭の少女は、状況を理解したが、それでも、
「ギャー怖い、怖い! 降ろして〜」ほうきを持ったまま、足をジタバタさせた。
高いところは、普通にこわかった。
ようやく降ろされると、そのまましゃがみこんでしまう。
「小学生かよっ」
してやったり、という顔をするクラスメイトに涙目でつっこむが、腰が立たなかった。
長い髪の少女は、廊下側に、次のターゲットを発見したようだった。
腰をかがめ、息をひそめて接近していく。
その姿のおぞましさに、おかっぱの少女は、引き止める事もできなかった。
廊下側では、教室の騒ぎにも気づかず、掃除をしている生徒がいた。
「窓ガラス〜、窓ガラス〜♪」
特に、中庭側の窓をぞうきんで拭いている縦ロールの少女は格好の餌食だった。
案の定、簡単に捕獲されてしまう。
「ほうら、高い、高〜い!!」
しかし、縦ロールはおかっぱのように、騒いだりはしなかった。
「……」
しばしの沈黙のあと、長い髪の少女は、縦ロールの少女をそっと床に降ろすと、
「ちぇ、怖がってくんなきゃつまんないやー」とすごすごと巣に帰っていった。
ようやく復帰したおかっぱが、
「瞳子大丈夫?」
縦ロールに近寄って腕に手をかける。
「瞳子?」
縦ロールは電池の切れたオモチャのように何も見ていない目で突っ立っていた。
「瞳子ー!!」
ちょうど、薔薇の館へ向かう三人の薔薇さま方に、叫び声が届いた。
「あら、なつかしい」紅薔薇さまが反応すると、黄薔薇さまは、
「これ聞くと春が来たーって感じるよね」と返した。
「ほんとに仲いいわーあの二人」白薔薇さまは、嬉しそうに言った。
電池を入れ直してもらった縦ロールの怒りは、すさまじかった。
「気配消して、後ろから近づくのやめてよっ!こわいでしょっ!」
長い髪の少女は、ひるまなかった。
「あら、瞳子さんの歩き方を真似したのよ」
祐巳さまストーキングするとき役に立ったわと悪びれずに言う。
「そんな瞳子さんに、ちゅ・う・こ・く。無意識にあの歩き方する癖直したほうがいいわよ?」
よく追突したり、されたりするでしょ?
図星だったのか、縦ロールは顔を真っ赤にして、黙り込んだ。
おかっぱは、二年松組にこの三人がそろった意味を考えていた。
リリアンは問題児をまとめて管理するって噂を聞いたことがある。
それって、この二人の事だよねっ、私はこの二人のお目付役として配属されたんだよねっ、
そうだよねっ、ふふふ、ふふふふ…
現実逃避しているおかっぱを残りの二人は、気味悪そうにながめた。