「えっ、もう妹みつけたの!?」

流し台にむかって、ティーカップをゆすいでいた少女が振り返った。

縦ロールの髪が、ぶるんっと揺れ

「早っ」

実の妹だってば

おかっぱを伸ばしたような髪の少女が、うんざりしたように答えた。

朝から、この話題に入ろうとするたび、同様の反応が返ってくる。

ここリリアン女学園では、「妹」と言うと、まず世間一般とは違う意味にとられる。

「実家でリリアンの話してたら、興味持っちゃってさ」

おかっぱの少女は、仲間であり、親友でもある縦ロールの少女には、

詳しい事情を説明しておきたかった。

 

同じ頃、講堂から薔薇の館に通ずる廊下を、三人の少女が歩きながら、

同じ人物について話し合っていた。

「じゃ、志摩子さんは、乃梨子ちゃんの妹さんと会ったことあるんだ」

髪を頭の横で二つにくくった少女が、たしかめると、

「うん」ゆるやかなウェーブの長い髪の少女が答えた。

「そっくりだったでしょ」愉快そうに、きれいな顔をほころばせる。

「髪型までね」長い髪を二つに分け、耳の下あたりから三つ編みにした少女が

あきれたようにつぶやいた。

「あれじゃ、遠目だと区別がつかない」

「お姉さんに憧れていて小さい頃から何でも真似するんですって」

普段物静かな、長い髪の少女は珍しくはしゃいで、こう言った。

「二人並んでいると、お人形さんみたいなの」

(それはアンタもだよ、志摩子さん)

残りの二人は心の中で同じつっこみをいれた。

日本人形ニ体か、西洋人形と日本人形の組み合わせか、の違いはあるけれど。

 

三人の少女は、先程まで参加していた高等部入学式を、振りかえっていた。

学園長の挨拶の後、新入生代表として一人の生徒が壇上にあがると、

教職員の席から、どよめきが起こった。

半分ほどの人数は、驚きの声をあげ、残りの半分はその反応を楽しんでいた。

生徒会役員として、出席していた三人の少女も、様々な反応をした。

ツインテールの少女は素直に驚き、長い髪の少女はそれを楽しそうに眺めていた。

三つ編みの少女は、式が始まるや、きれいに整列した新入生たちの列ばかりみており、壇上をろくに見ていなかったので、騒ぎにも気づくのが遅れた。

ただ、近くに座っていたシスターが(デジャブ?)とひとりごちたのは、聞き逃さな

かった。

 

真新しいセーラーカラーの制服に身をつつんだ新入生たちにも、

静かな動揺が広がっていた。

さすがに、私語をかわすものはいなかったが多くの生徒が首を伸ばして、

自分達の総代である生徒の顔を見ようとした。

何が、教師達を驚かせたのか、

これから何かパフォーマンスでもするのか。

その場の注目を一身に集めながら、壇上の少女は気負いもなく、語り始めた。

手元の巻紙をほとんど見ずに、会場全体に目をくばりながら、ゆっくりと。

内容自体は無難なものだったが、

誰もがそのおかっぱ頭の少女から耳が離せなくなっていた。

新入生のうち、大半の生徒は、スピーチが始まってすぐに、同じ事に気づいていた。

(外部生だ)(外部からきた人だ)(入試トップかあ)(さすが)

外部受験の生徒でその事に気づいたのは、入試の時、隣に座った二人だけだった。

 

「あの挨拶は、良かったよね」

ツインテールの少女は、誰かを思い出すように、うっとりとしてそう言った。

長い髪の少女は、なぜか誇らしげにうなずいた。

三つ編みの少女は「蜂でも出れば面白かったのに」とつぶやいた。

 

「こんにちわー初めましてー」

おかっぱの少女が元気よく挨拶した。

「わー本物の瞳子さんだー」

縦ロールの少女は挨拶を返すこともできず、固まってしまった

おかっぱの後ろに、もう一人おかっぱが重なっていたから。

(ドッペルゲンガー?)

「姉のする話は、志摩子さんか、瞳子さんのことばっかりなんですよー」

「余計な事、言わないのっ

うしろのおかっぱが前のおかっぱをいさめた。

「先輩はさまづけ、挨拶はごきげんよう、でしょー」

ということは、後ろがオリジナルで、前がコピーか?

「えーと、双子だったの?」

「違う!」「違います!」タイミングはマナカナなみに合っているけれど。

「キャー本当にドリルみたいー」

まだあ然としている縦ロールに、おかっぱ2号はとばす、とばす。

「まわらないんですかー」

(可愛い、この子…)

縦ロールは自分の頬が、熱くなるのを感じた。

おかっぱ1号が、その変化に敏感に気づき、顔をのぞきこんでくる。

怒っているのではないことを示すため、笑って答えた。

「ごきげんよう! リリアンへようこそ!」