「行ってらっしゃい」

「行ってきまーす」

母と姉のやりとりを、祐麒は玄関で靴を履きかけながら見ていた。

「‥‥‥」

「あら、祐麒、なにしてるの?早くしないと遅れるわよ?」

「うん‥‥ねえ、今なにしてたの?」

「ああ、これ?ほら、時代劇でよくやっているでしょ」

「あの、よよよい、よよよいっていうやつ?」

「う〜ん、ちょっと違うけど。…しぶいの知っているわね、祐麒、由乃ちゃんと話、あいそうね」

「それはどうも」

「さ、祐麒もうしろむきなさい。やったげるから」

「俺はいいよ、卒業式でもなんでもないんだから」

「あら、そう?じゃあまた今度ね」

母は少し残念そうだったが、祐麒はそんな気になれなかった。

なぜなら、さきほどの光景で、祐麒はしっかりと想像してしまったから。

姉の背中には、なぜか、たきぎが背負われ、

母は残酷なうさぎの顔で、カチカチと火打ち石を打っていた。

なにが嫌かって、姉のかわりに自分でも、すごく似合いそうなところだった。