(う〜ん、頭が痛い…)

聖は寝返りをうって、目覚まし時計を止めようとした。

しかし、見当をつけて伸ばした手はむなしく空を切った。

(?)

それに、このベルの音もなんか変だった。

まるで、男の子の声のような…

「うわっ、うわわっわ!」

「ほえ?」

顔を上げると、そこにいたのはパジャマの前をはだけた福沢祐麒だった。

「なななななっ」

下手なコントのような、あわてっぷりだった。

「…おい、祐麒、なに女の部屋にしのびこんでるんだよ」

「!! …ちがうっ、ここ俺の部屋っ」

見回すと、たしかに見慣れぬ部屋だった。

「とにかく、早く服を着て!」

肌寒いと思ったら下着姿だった。

「…お前が、脱がせたのか?」

「ちがうよっ!目さましたら聖さんがそのカッコで寝てたんだよっ」

まあ、ブラもパンツもちゃんと着けてたので、それほど騒ぐことでもない。 

「痛っ!」

頭を押さえる。なんだ、この痛みは…

次第に昨日の記憶がよみがえってきた。

 

       ** ** ** **

 

先月で、この私、佐藤聖はめでたく二十歳になった。

講義が終わり、教室でそれをいうと、皆で飲みに行くことになった。

…別に今までだって、何度もコンパには行っている。

要は、なにかしら理由をつけて騒ぎたいだけなのだ。

新年会もかねて、軽い気持ちで参加した。

…甘かった。

もともと、酒をあまりおいしいとも、思っていなかった。

皆にも、あまりすすめられなかった。

今思うと、それは、やはり未成年に対する遠慮があったのだろう。

話をしながら、料理を食べ、気がつくと、コップに酒がつがれている。

はて、さっき空にしたはずだが。

…まあ、いいか。

隣の友人と大笑いをしていると、またいつのまにか満杯になっている。

それを繰り返しているうちに、あっという間に限度を越えた。

けれど、自分も周囲もそれに気づかなかった。

「なんだ、けっこういけるクチじゃない」とまで言われた。

いざ、帰る段になって、腰がたたないことに気がついた。

女として、けっして小柄なほうではない。

友人ふたりに、両脇をかかえられ、なんとか店の外まで出た。

「…佐藤くんじゃないか」

そこにいたのは、なんとギンナン王子だった。

「あっれ〜アンタも飲みに来てたの?」

普段の数倍増しの愛想をふりまいてしまった。

「違う。僕はまだ二十歳になっていない。今日は酔った友人を

迎えに来たんだ」

ふん、くそまじめな奴だ。

ところが、両脇の友人達にとっては、渡りに船だったようで、

グデングデンの私を有無を言わせず押しつけやがった。

…まったく、薄情な奴らだ。このまま私が、お持ち帰りされても

いいというのか。

…まあ、その可能性がないことは明らかだけど。

ギンナン王子は、ぶつくさ言いながらも、酔いつぶれた男と私の二人を車に乗せてくれた。

問題は、奴が私の家の住所を知らない事だった。

…知っていられても怖いが。

男と、どちらを先に送るかの都合があるのだろう。

しつこく、道を聞いてくる。

しかし、こちらも初めての道だ。

標示板などをているうちに、気持ちが悪くなってきた。

…吐きそう」

「うわーっ、待て待て」

大慌てする奴の顔を見て、少し気分がよくなった。

そのうち、道もきかれないのに、ある家の前で停車した。

初め、酔いつぶれた男の家だと思った。

しかし、ギンナン王子が玄関先で話している相手の声に驚いた。

(祐巳ちゃん?)

なんと、奴は手近の知り合いの家、福沢祐巳ちゃんの家に私を

連れてきたのだ。

くそう、なんて事しやがるんだ。

私は祐巳ちゃんのお母さんの前では立派な先輩、元白薔薇さまを演じてきたというのに。

イメージぶちこわしじゃないか。

しかし、限界だった私には助かった。

トイレにかけこむと、思いっきりリバースした。

奴の車にだったら、あとあと、ずっとイヤミを言われるところだった。

それに、祐巳ちゃんのご両親は今、ご旅行中だと聞いてホッとした。

…その状況でギンナン王子に鍵を開けた祐巳ちゃんには後でよく注意しとこう。

そして、しわにならないよう服だけ脱いで、祐巳ちゃんの用意してくれた布団にもぐりこんだのだ。

 

       ** ** ** **

 

「そうか、それで夜中にトイレに行って…」

お約束どおり、間違って祐麒の部屋の、祐麒のふとんにもぐりこんだのだ。

「…祐巳ちゃんにしてはゴツゴツしてるなあ、とは途中で思ったんだけど」

「なななっ」

祐麒は顔を真っ赤にして、腕をぶんぶんふりまわした。

「…じゃっ、あれは夢じゃなかっ…!?」

うん、なんか、いろいろとしたような気がする。

あれ?

そういえば、途中で、祐巳ちゃんはどうして自分自身の名を呼ぶのだろうと不思議に思ったんだが?