puncture   終わりのカタチ〜ちょこっと改訂版〜

                                影葉ヘイズ

 

この作品はpuncTureというゲームを作者が独自に解釈して書いたショートストーリーとして理解してからお読みください。

 

 

 

ある国の片田舎の深い森の、そのさらに奥に、人の目を避けるように立てられた暗い館があった。

まるで、人や動物たちも避けるようにと、その館の周囲には枯れた草花があるだけだった。その館からよどんだ空気が吐き出されているようであり、陰湿で幽霊でも出てきそうな様子だった。

 

この不気味な洋館には二人の人間が住んでいた。

この国が隣国と休戦協定をしたために失業した男、ヴラドと黒い生地と白のレースで作られた服の少女、サキである。

 

この男、ヴラドは人を傷つけることを生きがいにし、それに見合った職業を持っていた。

しかし、一時的とはいえ平時に戻ったこの国にとっては非常に都合の悪いものだったため職を失うことになってしまったのだ。

職と人が苦しむ姿を見ることが出来なくなったヴラドは国からわずかな恩給で廃人同様に生活していた。

 

数ヶ月もその様な生活をしていただろうか。

今にも雨の振りそうな曇り空のある日、昔の仕事で様々な道具を持ってくる業者の女から手紙がきたのだ。

その内容はヴラドにとって破格のものだった。

それは以前のような仕事をしていれば莫大な報酬が支払われるというものだった。

ヴラドにしてみれば半信半疑ながらもほかに選択肢はなかった。

 

そうやって訪れたこの洋館で初めてサキに逢った。

ヴラドが何日もかけて洋館を訪れると、そこの地下室にあの手紙をよこした女がいた。

相変わらず胸の部分にファスナーのついた変な服を着ている。

その中には色々道具が入って便利らしい。

だがその衣装は昔見ていたので驚きはしない。それよりヴラドの目を奪ったものが目の前に吊り下がって(・・・・・・)いた。

そこには少女がいて、その少女の瞳にヴラドは一瞬、目を奪われてしまった。

その少女がサキだった。

バシッ

「キャァ、ぅぐぅっ、話が違うぅ。」

バシッ

「キャァ」

バシッ

鋭く高い音を出す鞭が素早く繰り出されるたびに吊るされている少女が悲鳴をあげる。

ヴラドは気を取り直すと、少女を傷つけている変な服を着た女にとりあえず声をかける。

「おい、……」

 

夢中になっているらしくヴラドの声は届かない。再度呼びかけようと女の名前を思い出す。

 

「おい、エレナ!」

ようやく気づいたのかエレナは親の敵でも見るような目を多少は和らげ、薄気味悪い笑みを浮かべた。

「なんや、アンタかいな。せっかく人が楽しんどるっちゅうに。」

「それより人をこんなとこに呼び出しておいてなんなんだ。」

「見ればわかるやろ。ってわからんか。まあ、ちゃんと説明したるか。」

 

 

それはこのようなものだった。

数ヶ月前ある遺跡からこの洋館の前の主人パッシェン公が古代の遺跡からあるもの(・・・・)を発見したらしい。それがサキだった。

パッシェン公はサキを養女として育てたが、彼はすぐに死んでしまった。

そのためこの少女が館の今の主人となった。

サキは愛する者すべてに死をもたらすという。

人は本来生きるということに飽きない限り不死だがこの少女が自分以外のすべてを愛する(・・・・・・・・・・・)ために死を運命づけられたらしい。

そして、自分のせいで愛する者を死に追いやるため少女は自分だけは愛することがなく不死でいるのだという。

そしてその不死のためにいくら傷つけても元に戻ってしまうらしい。

さらに自分を嫌いになるようにして欲しいというサキ本人の依頼なのだという。

聞いただけではとうてい信じることはできないようなものだった。

 

そこでヴラドに依頼がきた。

少女が世界を愛さないように、憎しみ過ぎないようにするために。

 

説明が終わると。

「時々は様子を見にくるわ。ついでに昔のつてで道具も持ってきたるで。」

と言い残しさっさと森の中へ消えてしまった。

エレナはこの館にいるのも嫌らしく宿は離れた村にとってあるようだった。

ヴラドが始めて二人に会ったときの態度でわかった。

どうやらエレナはサキのことを化け物のようにおもっているようだった。

 

その夜。

ヴラドが夕食をとろうと食糧庫向かった。

そこから持ってきたのは硬くなったパンや保存食などだった。

他にこの屋敷には食糧になりそうなものはなくあきらめて硬いパンを少し口にしてみる。

「マズい。くそっ、こんなものしかないのか。」

こうなって寝るばかりとこちらも硬いベッドに横になると。

扉をたたく音がした。

 

コンコン。

再び扉をたたく音がする。

この館にはヴラドとサキしかいない。

どうやらサキがきたらしい。

「入れ」

ヴラドは冷たく答える。

「お食事を持ってきました。」

サキが静かに部屋に入ってくる。

ちょうどいいタイミングだがヴラドはどうしたものかと考える。

明日から傷つける予定の相手だしこんな田舎まで散々移動してきたので今は休みたい。

そう考えると。

 

「そこに置いて行け。」

とテーブルに食事を置いていくように冷たく指示する。

「…はい」

どこか悲しそうにサキが部屋を出て行く。

 

コツコツ。

サキの足音が十分に遠ざかるのを聞いてから食事に手をつける。

もともとここに用意されていた硬いパンや保存食は美味くない。かといってサキの食事は安易に優しさを見せれば好意を向けられ死が近づく。

 

食事を終えると食器はすべて窓の外に投げて、眠りに着く。

まさか全部食べてしまったと正直に言えば好感を持たれてしまうかもしれないが、こうすれば分からない。

 

次の日、といっても時間の感覚はない。日は出ているがいつまで寝ていてもさすがにずっとそのままではいられない。

だがいつまで寝ていようがすることは変わらないため問題はない。

 

さっそく楽しみにしていたことのためにサキを連れて地下室に入る。

 

昨夜エレナにつけられた傷はもう治っているようだった。

まずどうするか、とサキの怯える顔を見ているとなぜかやる気が失せた。

何の理由もない。ただサキを傷つける気がなくなってしまったのだ。

「やめだ、やめだ。つまらん。」

そういうとヴラドは背を向け地下室の出口に歩き出す。

てっきりエレナがしたようなことをされると思っていたサキは拍子抜けしたように言った。

「えっ、あの…。」

だがヴラドは何も言わず自室へ帰ってしまった。

 

自室では何度も部屋を出ようとしたりするがどうもやる気が起きない。そうこうしていると夜になっていた。

ヴラドは何をするでもなくそのまま寝てしまった。

 

ガシャァァァン

深夜の突然の大音量に目を覚ますと窓が大きく割れていた。

何事かと部屋を見回すとエレナがいた。

しかもどこも怪我をしてる様子はない。

こいつの方が化け物だろうと思いつつ、とりあえず文句を言う。

「こんな夜中になにしてやがる!。」

するとエレナは何事もなかったように、

「まあ気にしたらあかんで。下に鍵がかかっとったから上から来たんやないか。」

ため息をつきながら答える。

「わかった。次からは開けておく。」

どうせこんな田舎にある森の中にはそうそう野党もこないだろう。

「それで、何の用だ?」

「それはこれや。」

陽気にそう言ってエレナは胸のファスナーの中から何かを取り出す。

「これは『洋梨』っちゅうてな。手に入れるのに苦労したんやで?」

「そんなもん知ってる。もういい、用事は済んだろ、さっさと出て行け。」

「やっぱし知っとったか、ならええわ。うちは帰るで。」

そう言ってさっさと出て行ってしまった。

壊れた窓を直すためサキにガラスを片付けさせヴラドはガラスの代わりに板を打ちつけ、その夜はすぐに寝てしまった。

 

 

次の日も、その次の日も、不当な使役に対する労働者のサボタージュのようにサキにはほとんど何もせず、時々睡眠の邪魔をして変わった物を持ってくるエレナを適当にあしらいながら6日ほど過ごした。

 

ヴラドの体力はこのあたりにきてそろそろ限界に来ていた。

頭は重く体は日に日に疲れがたまっていく様だった。

それは食事を満足に取らないわけではなく、激しい運動をしているわけでもない。

現に初めてサキに会ってから彼女を肉体的に傷つけるようなことはしていない。

 

いや、なぜかヴラドはサキを傷つけることはできないでいた。

エレナが様々な道具を持ってきても使っていないし、何か聞いてきても、「うまく言っている」としか答えていない。

そういえば最近になって悩みがあるようなことを言っていたことを思い出した。

あんなやつでも悩むようなことがあるらしい。

 

コンコンコンコン………

 

コンコンコンコン………

 

そんなことを考えていると、どうやら今夜もエレナが来たらしい。

来るたびに窓を割ったり、扉を破りそうになったりとこちらの迷惑をかえりみないので今回は構わないようにしようと思った。

 

コンコンコンコン………

 

コンコンコンコン………

 

コンコンコンコン………

 

無視しようと思ったがどうにもしつこい。

ヴラドは仕方なく館の外に出てエレナに怒鳴る。

「いったい今夜はなんの用なんだ!」

エレナは何かすっきりしたよな顔で答えてくる。

「冷たいな〜。ウチがせっかくこんな所まで来たんやで?。」

そう言うとこちらに近寄ってきて胸のファスナーに手を入れる。

どうやらまた何か持ってきたらしい。

それが何なのかはっきり確認する間もなくエレナの手が視界から消える。

少し遅れてヴラドの腹が熱くなる。

「…な…に……」

エレナがナイフでヴラドを刺したのだ。

エレナが薄く笑っいながら言う。

「あんたはもう用済みなんや。軍は彼女を使って楽にお隣さんをモノにするんやて。」

「き…さま……」

ヴラドが驚きつつ後ずさる。

エレナは悦に入ったように笑いながら言った。

「それそれ、その目や。ええな〜。嬉しいで。」

「くそっ」

腹部の傷は深くあまり長く持ちそうにない。

それを悟ったのか、ヴラドは無理をして一気に館に逃げ込み扉を閉め鍵をかける。

逃げ切れることもないと分かっているのかエレナは無理に追ってこようとはしなかった。

増援でもいるのだろう。

もともと堅牢な要塞でもないただの館はすぐに侵入されるだろう。

傷の痛みをおしてゆっくりとだが奥へ進む。

 

するとサキがすぐ近くまで来ていたらしく扉のそばのヴラドを見つける。

どうやらエレナのうるさいノックが気になって様子を見に来たらしい。

 

ヴラドの様子がおかしいことに気づくとサキが急いで近寄ってくる。

しかし、サキがヴラドに近づく直前、ヴラドが壁を背にして倒れるようにずり落ちる。

「きゃっ」

サキがヴラドの傷を見つけサキが悲鳴を上げる。

それでもこれくらいの傷は自らのもので見慣れているのかすぐに正気をとりも戻す。

 

「大丈夫ですかっ」

サキがヴラドの顔を覗き込み聞いてくる。

ヴラドは「大丈夫なわけないだろう」と答えようとするが声が出にくい。

サキは聞き取れただろうか。

だがヴラドはそれよりも考えを巡らせていた。

 

 この館の中で数日とはいえヴラドとサキしかいなかった。

サキにとってヴラドは嫌悪されなければいけない対象だったが、サキは少なくとも孤独を感じることはなかっただろう。

そこでヴラドはサキの冷たい手を取り、はっきりと、今度はちゃんと聞き取れるように、まるで謎かけのような言葉を吐き出していった。

 

 

「エレナだよ。お前を使って戦争をするんだと。」

サキがヴラドを起こしたため血がサキの服にも付くが、そんなことは気にならないようだった。

「私が、またみんなを殺しちゃうの?私のせいでみんな死ぬの?」

サキはまた他人を攻めずに自分を責めるように言う。

「オレもオマエも同じ人間だよ。愛すべき人間だ。」

ヴラドはわれながら臭いセリフだと思いつつ息を整えようとする。

しかし、時折引きつったような息をするだけだった。

苦しくてもう声は出せないのだろう。

これでサキは全てを嫌い不老不死となった世界は混乱するだろうかとささやかな反撃を考えていると、だんだん視界は暗くなり、サキのすすり泣く声だけが聞こえる。

ヴラドはすべての感覚がなくなっていく中で、昔のことよりサキと過ごしたこの館での短い日々を思い出していた。

そして、

ああ、バカな話だ。オレはこの少女に惹かれていたのだ。と思った。

初めてサキを見たときにその助けを求める瞳に魅入られ自分の死は確定していたのだと。

そして昔は好んでやっていたようなことがサキに対してはできなかったこと理由も。

そう思っていると深い闇に抱かれるようにヴラドの意識は失われていった。

 

 

 

 

 

                       了

 

 

あとがき

 

稚拙な駄文でごめんなさい。もう生き恥ですよ。

この作品はdopamineさんというサークルさんの同人作品をやってみて消化不良になってしまって書いてみたんですが実は初作品にして同人作品です。