永遠のアセリア 1
Recordation of Suppressor
50話 青き妖精は黒き獣に臨みて
2
行き先を阻んでいたミニオンたちを蹴散らしながら、回廊の踏破を進める。
単身で突出する俺の後ろには、エスペリア、ハリオン、ヒミカ、シアーが控えていた。
ミニオンの数はそう多くないので、とりあえずは後方の四人には敵を流さないで済んでいる。
しばしの攻防の後に、ミニオンの姿は完全に消えていた。もっとも、回廊をある程度進むとまた現われてくるのだが。
先程から、ずっとそれの繰り返しだ。進んではいるのだが、どうしても相手をしなくてはならず時間がかかっていた。
エスペリアら四人と合流したのは少し前に遡る。その時に、四人だけがどうして残っていたのかも聞いた。
「……四人とも辛くはないな?」
尋ねると、肯定の返事が返ってきた。
エスペリアはハリオンに背負われての移動となっている。表層的な傷はともかくとして、内面の傷ばかりはすぐに治療できるものではない。
彼女がおそらくントゥシトラから受けたであろう傷を考えれば、早々に後方へ護送してしまうべきだ。しかし、当のエスペリアがそれを拒んでいた。
彼女たちは後ろへ下がるどころか、前へ進むという選択を選んでいる。この世界を巡った戦いの決着を見届けようと。
そして、今では俺と一緒に回廊の奥を目指していた。
襲撃が収まれば、周囲は静かなものだ。音源は床を叩く足音だけだった。
「ランセル様……一つ、教えて欲しいことがあるんです」
進んでいると、エスペリアにそう話しかけられた。
歩くのを止めないまま、顔も向けないで聞き返す。
「改まって、何を?」
「アセリア様のことです」
そう来るか、というのが率直な感想だった。
とにかく先を進めるように促す。
「アセリア様は……この世界の出身なのではないですか? もしかしたら、私たちと一緒に戦っていたのでは……?」
「どうして、そう思うんだ?」
口を挟まないで、まずは聞いてみようと思った。
「理由はいくつもありますけど、まずはブルースピリットによく似てますから……」
それは、確かにその通りだ。外見が変わっているわけでもないのだし。
「それにあの方の剣術ってラキオスのとよく似てますよね。それを言うならユウト様もなんですけど」
ヒミカがエスペリアの言葉を引き継ぐ。
後ろの様子を見てないから分からないが、もしかしたらエスペリア個人の質問ではなく四人全員の総意としての質問なのかもしれない。
剣術に関しては同じような使い手なだけ。というのは苦しすぎる言い訳だろう。
「シアーたちを前から知ってたみたい」
アセリアかユートか知らないが、うっかり昔の感覚で話しかけていた、のかもしれない。
……あの二人は、そういうのを隠して話すのが苦手そうな印象がある。
「ハリオンはどう思っているんだ?」
「う〜ん、やっぱり怪しいですね〜。それに本当は知り合いだったらちょっと面白いとは思いますけどね〜」
面白い、か。本当にそうかは分からない。
看破されて、当のアセリアやユートはどう感じるのか。
故に訊く。質問に答えるかはまだ決めかねていた。
「知ってどうするんだ? 仮に旧知の仲だったとしたら、それを言うのか?」
こういう訊き方は深読みをすれば肯定したことにもなるかもしれない。
それとも確証が得られない以上は、かえって迷うのか。
「大体……この戦いに勝ち残っても、俺はおろかアセリアたちと一緒に戦ったという記憶さえ消えるんだぞ?」
振り返って四人の顔を見る。あまり納得はしていないようだ。
だから事例を一つ挙げてみる。
「俺が倒したエターナルの名前や容姿を……覚えているか?」
問いかけに、四人が固まった。
すでに誰にも答えられなくなっている質問なのだから。
「……そういえば、どんな相手でしたっけ……?」
「説明しても、もう想像しかできないぞ」
俺やユートたちがまだいるため、自分たちがロウエターナルと戦っているという記憶や認識は消えていない。
しかし、消滅したメダリオ自体の記憶はすでに消え去っている。ントゥシトラも同様だ。
エスペリアに関しても、あくまでロウエターナルの誰かから受けた傷という認識でしかない。
そして、彼女たちはそれを指摘されるまで気づかなければ考えもしなかった。
忘れられるとは、こういうことだ。自然に、しかし確実に思い出せなくなる。
俺も、いずれそうなる。
「それで気づいたんだが、今も覚えているロウエターナルは誰がいる?」
彼女たちが名前を思い出せるロウエターナルは今も健在ということだ。
「テムオリンとシュンに、タキオスでしたっけ……」
「それで実際は半分だ。となると三人のロウエターナルを倒したことになるが……」
特に厄介な相手だけが残っているとも言える。
どこまで戦えるか……。
「ランセル様、話を逸らさないでください……」
エスペリアが話の軌道を修正してくる。
逸らしているつもりはなかったのだが……。
「俺が何を言っても忘れるというのに?」
無意味だと思う。この口から出る言葉が真実でも虚偽でも、そもそも意味を持ち得るというのか。
エスペリアとしては真実を知りたいのだろう。しかし、それに答えられるだけのことが俺にはできない。
そして、逆に問われた。
「ですが……今この瞬間は覚えていられます。それでは足りないというのですか?」
答えられなかった。けれども、と思う。
それならそれでもいいのか。俺があれこれと考えることではないのかもしれない。
アセリアは自分の過去を今になって知られたいと思うのか……それは分からないが、言ってしまおうと思った。
「永遠のアセリア……アセリア・ブルースピリットはかつてラキオスのスピリット隊に所属していた。ラキオスの蒼い牙の異名を持ち、ウルカと並び称されていた剣の使い手だった」
――だった。そう、全ては過去の話だ。認知されなくなった過去の話。
端的ながらアセリアの話を少しする。ユートに関しては触れないようにして。
それはまた別の話だと思えたからだ。
ある程度を話し終えてからエスペリアらを見る。予想通りの表情と言うべきか。
「……いざ、そう言われても実感はないんだろう?」
「……はい」
「続きはどうする?」
「是非、お願いします」
即答された。少し考え込みつつ、記憶を掘り返していく。
俺たちにしか残らない、記憶の話をする。
いつしか、誰もが黙り込んでいた。行軍の疲れが出てきたからではない。
道の先から感じる威圧感のせいだ。それは目に見えない重圧となった周囲に充満している。
そして、進めば進むほど重苦しさは増してくる。
狭まった通路を抜けると、広場に出た。広場の向こうにはさらに奥に通じている道が見える。
しかし、その前に巨漢が立ち塞がっていた。
「俺の相手は貴様か、妖精」
そして、蒼き妖精は黒き獣と再び出会った。
男――黒き刃のタキオスは泰然と待ち構えている。その傍らには『無我』が岩のように突き立てられていた。
アセリアは無言のまま、前に進み出る。
「よもや、今一度相まみえる機会が来るとは思っていなかったぞ」
アセリアが悠人と共にリュケイレムの森で戦った時には、まるで歯が立たなかった。
あれからアセリアの力は、当時と比較にならないほど上昇している。
それでも、タキオスが以前強大な相手である事実は変わらない。
「みんなは下がってて。こいつとは私だけで戦う」
アセリアは後ろを制するように告げる。
「その通りだ。もはや我らの間に力の足りぬ者は不要。他の妖精どもはそこで見ているがいい」
誰かが割って入れるような雰囲気ではなかった。
そして、タキオスの右手が『無我』へ伸びる。
「『無我』よ、あの者に活力を与えよ!」
『無我』からの黒い光が床を走り抜け、アセリアを包み込む。
咄嗟にアセリアは身構えるが、身体に異常は起こらない。それどころか、ントゥシトラやミニオンとの度重なる戦闘での傷が癒えていた。
「どういうつもりだ? 施しをするなんて油断しているのか?」
「勘違いするな。俺はただ、万全の状態の貴様を打ち倒したいだけだ。そして、俺は期待しているのだ」
「期待……?」
「俺を打ち倒せるだけの剣士が現われるのを……お前にそれができるのかな、永遠のアセリア」
アセリアは『永遠』を構えることで返答代わりとする。
タキオスもまた『無我』を引き抜く。構えこそ取らないが、臨戦態勢に入っているのがアセリアには判った。
「お前が何を考えていようと……私たちの邪魔はさせない。邪魔をするなら斬って通る」
「その意気やよし。ならば、貴様の手で見事討ち果たしてみせるがいい!」
タキオスの体から黒いオーラフォトンが立ち上り体を覆う。
その余波が振動となってアセリアの体を軽く叩いていく。
タキオスから叩きつけられる気配はアセリアにとって異質だった。
殺気には似ている。しかし剥き出しの殺気とも違う。強いていうならば以前ウルカと相対した時に感じた雰囲気に似ている。
アセリアはすぐに動かない。タキオスから隙を見出せないためだ。
逆に不用意に近づこうものなら、一撃で返り討ちに遭う危険すら感じた。
「どうした、怖じ気づいたわけではなかろうな?」
アセリアは答えずに、進みもしない。
そして、タキオスが先に動いた。タキオスが『無我』を担ぐのと同時に、アセリアの周辺の空間が歪む。
「空間ごと貴様を絶つ。これがかわせるか!」
危険を察知したアセリアだが、歪みからは逃れられない。
即座に『永遠』で身を守る。直後に、衝撃が叩きつけられた。
金属音が鳴り響き、アセリアの体が大きく後ろへ弾き飛ばされる。六枚の翼もはためかせて、アセリアはごく短い距離で踏み止まる。
直撃は防いだようだが、重い一撃だ。何度も受けられるような攻撃ではない。
しかし、それ以上に。
「……何をしたんだ」
距離はまだ離れている。どう考えても『無我』の刃が届く範囲ではない。
しかし現実に刃は届いたようだ。アセリア自身、先程の攻撃では『無我』を見てはいないが、激突の衝撃も音も剣が届いたと考えるべきだった。
だとすれば、これが『無我』の力かとアセリアは判断する。
アセリアは今度こそ前へ。
このままでは一方的に叩かれるだけだ。タキオスにこの程度の距離が関係ないならば、自分の間合いに詰めなくては勝負にもならない。
翼で空を打ちつけ急加速。迎撃を受けないままに間合いに到達する。
加速の力を利用して、『永遠』を立て続けに撃ち込んでいく。
その全てが黒いオーラフォトンによって阻まれる。淀みのない連続攻撃でも、タキオスは巌のように揺るがない。
「お前の力はそんなものかっ!」
「!」
タキオスが構えに移る。同時にアセリアはその場から動く。
翼を駆使しての強引な進路変更を重ねて、そのまま背後まで回り込む。アセリアの機動力にタキオスは追従できない。
アセリアは狙う位置を変えて、三度『永遠』を振るう。アセリアの剣は未だにタキオスのオーラフォトンを抜けずにいた。
どこかに綻びがないかも探っているが、それも見当たらない。まさに鉄壁だった。
タキオスが向き直りつつ、『無我』で薙ぎ払ってくる。
「っ!」
「ぬうっ!」
アセリアは『無我』を『永遠』で受け止める。激突の衝撃で、両者の足下が歪んで砕ける。余波と共にそれは放射状に広がっていく。
タキオスはさらに刃を押し込もうとするが、アセリアもまたそれを押し返そうとする。
そして、均衡が崩れる。
「だああああっ!」
『永遠』が『無我』を後ろへ打ち返した。返す形でタキオスの胴を斬りつけるが、それはオーラフォトンに遮られる。
タキオスも再び『無我』を振るうが、アセリアも再び防いで弾き返す。
二度続いたその光景に、タキオスは攻撃の手を止める。
そして、おもむろに笑い出した。アセリアもまたタキオスに不審の目を向ける。
「強者と戦ってこそ、戦いには意味がある。そしてお前の力は俺の想像以上だ」
そして、タキオスは笑みを深める。実に嬉しそうに、楽しそうに。
「……嬉しそうだな」
「無論だ。お前はそう感じないか、アセリア?」
「……分からない。私は、楽しいと思って剣を取ったことはない」
アセリアはタキオスを見つめる。先程、ウルカの気配と似ていると感じたが、やはり違うと核心に至った。
ウルカもまたどこかで闘争を好む気質はある。ただ、それはあくまで一面的でしかないとアセリアは感じている。
だが、このタキオスにとっては闘争こそが中心だ。それが決定的な違いとしてアセリアには映る。
「私はただ剣の声のままに戦っていただけだ。お前とは違う」
そして、剣の声以外の理由で戦い始めたのはいつだったのか。それにしても、やはりアセリアはタキオスと違う。
タキオスは、アセリアの言葉にさして感慨はないようだった。
アセリアが再び構えたところで、タキオスの威圧感が膨れ上がる。
黒いオーラフォトンもそれに応じるように吹き上がり、『無我』の刀身に巻き付くように絡み合っている。
「肉体の限界を超える……力を求めた結果、俺はここに辿り着いた!」
アセリアには一瞬、タキオスが爆発したように見えた。
それはタキオスの力が膨れ上がった証だ。
「この上でまだ!」
「行くぞぉぉぉっ!」
轟音と風を巻き上げて、タキオスが飛びかかってくる。アセリアもまた飛びかかる。交差は一瞬。
唸りを上げる一撃が、『永遠』ごとアセリアを回廊の壁面まで叩きつけていた。
壁面に叩きつけられたアセリアは次々と壁を穿ってからようやく止まる。
ごく短い時間の間に壁が瓦礫と化し、アセリアの姿も見えなくなった。
しかし、それも時間としては短い。瓦礫をはね除け、アセリアが立ち上がる。のみならず、前へと飛翔。
激突。アセリアは傷を負いつつも、タキオスとすぐに切り結んでいた。
アセリアはタキオスの巨剣を紙一重で避けるが、それだけでも体が傷つけられる。しかし、怯まずに『永遠』を続けざまに叩き込んでいく。
先程よりも刃が通る。タキオスの鎧じみた肉体に深くはないが傷が刻み込まれていく。
「生半可な攻撃で倒れると思ったか!」
『無我』が振り上げられる。アセリアは直撃こそ避けるが、その上からでも容赦なく体を傷つけられていく。
(体を守っていたオーラフォトンも攻撃に利用しているのか……)
初めよりも攻撃が通用するようになったのは大きい。
しかし、それ以上の力による攻撃でタキオスは正面からねじ伏せてくる。堂々と、強引に。
「二つも三つも攻撃手段を持つ必要はない。ただ一つを鍛え上げてこそ必殺となる」
タキオスが『無我』を上段に構える。だからか、とアセリアは密かに納得する。
タキオスの攻撃が常に一撃だった理由に。そして、それが言葉通りに鍛えられていたのも。
「力を貸して、『永遠』」
アセリアは『永遠』との同調を深める。
タキオスの言葉通り、生半可な攻撃では時間稼ぎがいいところだ。それならば最高の一撃で向かうしかない。
ントゥシトラを相手にした時に発揮できた力を使う。
『永遠』の剣身に青い光が灯る。アセリアは長く深めに吐息。呼吸を整え、心拍を抑える。
アセリアはタキオスを見据え、飛び込んだ。
黒く輝く『無我』の刃が落ちてくる中で、青い煌めきを放つ『永遠』が薙がれた。
アセリアはタキオスの脇を抜けると、そのまま片膝を突く。『永遠』の青い光も消えていた。
対するタキオスは仁王立ちのままだ。だが、タキオスは振り返ることもなく、体が震えたように揺れる。
「見事――」
アセリアは勝利を確信した。ントゥシトラの時と同じ手応えがあったからだ。
直後、タキオスの横腹から鮮血が吹き出す。『永遠』は胴体の半ばまでを断っていた。
勝負を決める一撃だ。いかにタキオスといえど、完全に致命傷だった。
アセリアは一息。体はやはり重い。
「――と言いたいところだが!」
タキオスの体から黒いオーラフォトンが再び巻き起こった。
それは両断されかけた胴を覆うと、二つに分かたれないように拘束する。
タキオスが向き直り、一直線に向かってくる。アセリアの対応は鈍くなっていた。
「主に無礼を働く者どもを一掃するまでは消えん!」
『無我』の切っ先がアセリアの腹部に突き刺さる。咄嗟に展開したオーラフォトンも、元からの甲冑をも貫いて。
それでもアセリアは体をずらすことで、軸を逸らしている。反射的な動きで意図した行動ではない。
結果的にアセリアの体は『無我』に引っかけられたような形になった。
そのまま、タキオスが『無我』を振り回す。アセリアの体が大きく放り出されて、投げ出される。
受け身もままならずにアセリアが打ちつけられた。
タキオスが止めを刺そうと近づいていく。その一歩の度に、傷口から血が溢れてくる。
そして、アセリアもまた立ち上がった。左手は刺された場所を抑えているが、鮮血が滴っている。
「主……テムオリンのことか」
「左様、俺はあの方に仇なす者を打ち払うための剣だ。敵を残してむざむざとやられはせん」
アセリアは短く息を吐く。弾みで傷口から少し血が吹き出る。
その点は似ている、とアセリアは感じた。そして、改めて思う。似ているか似ていないかなど、アセリアにはまったく関係ないと。
「私も……剣だ。ユートを守るための剣……」
「ならば剣同士、雌雄を決しようではないか」
傷を押して、両者が構える。タキオスは獣のように息を荒くしていた。
逆にアセリアは荒くなりがちな呼吸と昂ぶる神経を抑え込もうとする。
「守るための剣……そうだ。でも……」
少し違う、そう思う。悠人を守りたいのは確かだ。けど、それだけでは足りない。
タキオスはそれだけでも足りてしまった。けれども、アセリアにはそれだけでは足りない。
「ユートを守って……それから……」
また悠人に会おうとアセリアは決めたのだ。
同じ時を、同じ瞬間を、同じ生を重ね合わせて。永遠に連なる未来という道を共に進もうと。
アセリアは、気づく。
タキオスが地を蹴ったのは、その瞬間だ。アセリアも迷いなく前へ。
神剣が一閃した。決着は、意外なほど静かに着いていた。
崩れ落ちたのは、タキオスのほうだった。
二つに分かたれた巨体が音を立てて背中から倒れ込む。アセリアは『永遠』を床に突き立て、それを支えとして辛うじて立っていた。
アセリアはタキオスを見つめる。彼女の顔に嬉しさは見られない。
「俺の負けか……生まれたばかりのエターナルにここまでやられるとはな」
自嘲めいた言葉ではあったが、タキオスの表情は逆に満足しているようでもあった。
彼の言う強者と戦えたためであろう。アセリアとしては、あまり賛同できなかった。
そのタキオスに向けて、アセリアは言う。
「私は確かに剣だ。でも私はユートと共に生きるための剣だ。どっちが欠けてもいけない……私たちは一緒に生きなくちゃ意味がない」
タキオスは答えなかった。ただ、深い笑みを残して。
黒い男の体が消えていく。光に包まれ、光に変わって、初めから何もいなかったように、消えた。
「……疲れたな」
『永遠』に向けて、アセリアは呟く。そしてアセリアもまた、そのまま昏倒した。
かくてアセリアとタキオスの戦いは幕を閉じた。
50話、了
2007年9月3日 掲載。