―新月の夜― どこかの町の郊外にあるビル、 表には町が、裏には森が広がっている。 そのビルの屋上に『彼』はたたずんでいた。 黒のズボン、黒のシャツに黒の上着を羽織り、腰ほどまである髪を後ろで縛っている。 上着の肩にはRの文字がふたつ、そして背中には巨大な鎌を背負っている。 「逃げられるとでも思ってるのか・・・?」 彼はビルの裏に広がっている森をにらむとつぶやいた。 ―みやぶる― 彼の目に、森の中を走る一人の男が映る。 「・・・そこか・・・」 ―ロックオン― 彼の目が、男を正確に捉える。 「捕捉・・・」 彼の右手に白い光が集束する。 「後悔するがいい・・・」 ―はかいこうせん― 白い光が彼の眼下の森に向かって放たれた。 『黒の記憶』    序章〜死神の鎌〜 ―同ビル内― ダダダダッ、バタン! あわただしい足音とともに黒服の男がドアが開いた。 胸には赤くRRと書かれている。 「ミキヤ様!」 その声に黒マントの青年―ミキヤ―は膝の上のシャワーズ―アクア―をなでるのをやめ振り返る。 「何事だ、騒々しい」 「はっ!それが研究員の一人が機密書類を盗んで逃走した模様です!」 男は一度敬礼をして答える。 「・・・ああそのことか、それならば心配いらん、もうオルファが向かった」 「は・・・!?掃討部隊長『黒の双影』のオルファ様ですか・・・?」 「そうだ、だからもう無用に騒ぐのはやめ、すぐに持ち場に戻るよう全員に伝えろ」 「はっ!失礼いたしました!」 男が出て行くと、ミキヤは誰に言うともなしにつぶやいた。 「ふん・・・『闇彗星のミキヤ』と『死神のオルファ』で『黒の双影』ね・・・誰が言い出したんだか・・・」 その直後、裏の森で爆発音が響いた。 「さて・・・私は、研究員が一人減りました、とボスに報告に行かなければな・・・」 ミキヤはアクアをもう一度なでると立ち上がった。 ―裏の森― 森の中にクレーターが出来ていた。 木々は倒れ、所々焼け焦げている。 そしてその中心に一人の男が倒れていた。 まだ息はあるようだ。 そのそばには、壊れたペンダントが落ちている。 その傍らで『彼』―オルファ―はその男を見下ろしていた。 「・・・なるほど・・・リフレクターと同じ効果のあるバリアアイテム、か・・・」 オルファは壊れたペンダントを拾い上げるとつぶやいた。 「以前シルフが開発したものをうちで改良したものだな・・・」 そのペンダントを投げ捨てると再び男に視線を戻す。 「だが、こんなもの防ぎきれるとは思ってなかっただろうな?」 「はぁ・・・はぁ・・・くっ・・・お前が、『死神のオルファ』か・・・」 「そうだ、機密書類の無断持ち出し、及びそれを持っての無断脱走は明らかな裏切りだが・・・」 オルファは冷笑を浮かべながら言う。 「そのしぶとさに免じて、最期に言いたいことがあるなら言わせてやろう」 「はぁ・・・ちっ・・・そりゃ慈悲深いことだな・・・・・・いいか、我々ロケット団は再びよみがえる」 男は倒れたままオルファをにらみつける。 「貴様らの手など借りず、今一度・・・サカキ様の下で・・・」 「ほう・・・」 「そのための準備は・・・ジョウトで着々と進んでいる・・・覚悟しておくのだな・・・」 言い終わると、男はもう一度オルファをにらみつけた。 「ふん・・・分かった、覚えておこう・・・言いたいことはそれだけか?」 「ああ、そうだ・・・!」 「そうか・・・」 オルファが背中の鎌に手を掛ける。 「じゃあな・・・」 「サカキ様万歳!!ロケット団に栄光あれ!!!」 男の叫びとともに鎌が振り下ろされる。 ―鮮血― 鎌の刃が赤く染まっていった。