マスター・オブ・ドラム

荒涼とした埼玉郊外の国道沿いに、巨大書店・ファミリーレストラン・ゲームセンターなどが集まった一角がある。娯楽に乏しいこのあたりでは、休日ともなるとささやかながら賑わいを見せている。しかし、冬休みも終わり子供たちは学業に、おばあさんは川に洗濯に、おじいさんはゲートボール場に戻っていった。

そう、私はこのときを密かに待ち焦がれていたのだ。ゲームセンター中央にたたずむ、このマシンを操る時を。

太鼓の達人4。アーケード版音ゲーの一種だが、他のものとはあきらかに違うオーラを発している魅惑のゲーム。いやここはあえて、太鼓と呼ばせてもらおう。リズムなんてハイカラな言い回しではなく、拍子こそが日本人の心なのだ。

追記

言うまでもなく太鼓はスポーツだ。腰をひねり、手を組み合わせて柔軟運動をする。
「待たせたね、タイコ」
逸る気持ちをおさえコインを投入口に放り込む。「夏祭り」を選曲すると、私はバチを握り締めた。

ゆっくりとしたイントロからひとつ太鼓を叩く。魂を揺さぶり心に響くこの音。今日は皮の張りも胴のしまりも完璧だ。時に強く、時にやわらかく慎重に拍子を刻む。曲は佳境に達し、もう画面など見ていない。乱打乱打みだれうちだ。めざせ100コンボ!

ふと、あたりが薄暗くなり、遥かな山なみの上には一番星が輝いている。気がつくとステージがせり上がりやぐらの上にいた。連なるちょうちんに灯はともり、遠くで六尺玉が上がった。ドンとはぜる花火の音が太鼓の音に同調する。火薬のにおいが夕風にのり、火照った体をなでてゆく。うなるバチ、飛び散る汗、燃える血潮。ねじり鉢巻も勇ましい。半被姿の子供が一人、二人と駆け寄ってくる。いつしか人が集まり踊りの輪ができた。やぐらを囲んでその輪が小さくなり、また大きくなる。祭りの夜は、まだ始まったばかりだ。

<eny elements>

©2004-6 FC2